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2022.09.05

くらしに寄り添う劇のあり方(福岡)

 須川渡と申します。関西生まれの関西育ち、福岡に越してきて5年が経ちます。ふだんは演劇研究者として、演劇の調査をしています。また、勤め先の福岡女学院大学で演劇の歴史や理論を学生に教えています。

「演劇研究」というと、あまりイメージできない人もいるかもしれません。主なフィールドは岩手県の西和賀町です。この町には地元の観客を相手に70年以上活動を続けている「劇団ぶどう座」という劇団があります。演劇資料の整理や地元の方への聞き取り調査を行い、かつて上演された古い演劇の掘り起こしを行っています。現在は、ぶどう座だけでなく全国各地の地域演劇に対象を広げ、昨年は『戦後日本のコミュニティ・シアター-特別でない「私たち」の演劇』(春風社)という本を刊行しました。

2016年「銀河ホール地域演劇祭」で行った講座「「地域演劇」を語り継ぐ」の様子

 さて、今回は「福岡や九州の演劇シーン」について執筆依頼をいただいたのですが、いきなり九州以外の地域から話を始めることになってしまいました。しかし、私にとって「地域」とは、内と外が積極的に影響を与え合う場所だと考えています。「福岡」や「九州」について考えるには、私が過ごした「関西」や「東北」との関係もまた考えざるを得ません。最近そのことについて考えるちょうどよい機会がありましたのでご紹介します。

 日本演出家協会が主催する「演劇大学 in 筑後」という催しで、宮崎の劇団こふく劇場永山智行さんと「まちと演劇」についてお話する機会をいただきました。和田喜夫さんがコーディネーターを務められている「あしたの、「演劇」を考える講座」の一環です。私は、研究しているぶどう座の事例を、永山さんは拠点とされている三股町の活動事例を紹介されました。永山さんのお話と西和賀には共通点が多々あるように感じられました。いつの間にか演劇製作の場が子どもたちや地域の人々の居場所になっていたこと。さっきまで舞台に立っていた出演者が観客と相互に入れ替わること。これらは、西和賀の地域演劇にも見られることです。永山さんは「まち」を人々の「くらし」に置き換えていましたが、私も「地域」とは人間一人ひとりの営みが感じられる場であるべきだと思います。オンライン講座という性質上、全国各地で演劇をされている方が視聴され、それぞれの地域の事例を知ることができたのも大変貴重な機会でした。

演劇大学 in 筑後 チラシ

 もっとも新型コロナの影響もあって、劇場に足を運ぶ機会が遠のいているのも事実です。しかし、この春から夏にかけて、少し希望の持てそうなことがありましたので、ご報告します。先にお伝えしたとおり、私は大学で、学生に演劇を教えています。その中で、授業期間中に行われている演劇を1本観てレポートを書く課題を出しました。今年度から対面授業も再開。オンライン授業が中心だった昨年度までは、まず実施できなかった課題です。

 集まったレポートは70本弱。自分でチケットを買うのが初めての学生もいました。博多座や北九州芸術劇場など福岡近郊の劇場が中心で、ミュージカルや2.5次元演劇、小劇場、お笑い、大衆演劇、レビューショーとジャンルも様々。おもしろいのは、劇場に居合わせた他の観客の様子を興味ぶかくレポートで記述している学生がいたことです。観客の感想を耳にして、自分とは違う物の見方に気づいた学生もいました。

 これは配信などでは、まず体験できません。最近は映像などに押されて、演劇は下火になっていると言われがちですが、それぞれのレポートを読むと、演劇にしかない魅力を伝えられる余地がまだ残っているように感じられました。

 レポート課題で取り上げられた演劇作品は、興行の側面が強いものでしたが、もう一方で、人々のくらしに寄り添うような演劇の形もあることを授業ではたびたび教えています。今後も演劇という世界の広さを工夫しながら、伝えていきたいと考えています。

須川渡(福岡女学院大学教員)

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