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2020.05.08

コラム|演劇人の活動の場をつくることで、御返しができたら(長崎)

長崎県を活動の拠点にしています「エヌケースリードリームプロ」代表の渡邉享介と申します。「長崎の演劇人の活動の場を増やすことが、長崎の芸術文化振興に貢献する」という指針で、様々な演劇事業を行っています。


「諫早物語~伊佐早戦国プライド男祭~」演劇で伝える諫早の歴史(諫早市ビタミンプロジェクト)

「仕事=社会貢献」と考えるとき「芸術(演劇)」は、とても重要な仕事として成立するはずですが、地方では難しく感じます。全国的に有名な演劇人がいて、そして、地方の演劇人もいて、それぞれが仕事として成立して当然だと思うのですが、そうなってはいません。

この矛盾は何なのか?
それは、供給する「価値」がわかりにくいからだと思います。

●演劇の価値とは?
「食べ物を買うと腹が満たされる」「病院に行けば病気が治る」などといった〈わかりやすい価値〉が、芸術(演劇)においてははありません。明確に「何が満たされるのか?」が、わかりにくいので「演劇鑑賞しなければ…」とは、ならないのだと思います。国は、芸術について【人々に感動や生きる喜びをもたらして人生を豊かにするものであると同時に、社会全体を活性化する上で大きな力となるもの】と、重要性を唱っています。とても大切なことですが、身近な価値としては捉えにくいです。実際、地方劇団の公演で「チケットが飛ぶように売れる」なんてことはほぼありません。どちらかと言うと「どうか、観に来てほしい…」と、知人に毎度お願いをしています。

これでは、国が言う「芸術に、極めて重要な役割がある」を、果たすことは出来ませんし「文化芸術の裾野の拡大」も、実現しないでしょう。

では、どうすればいいのか?

具体的な価値(付加価値)を自らが示し、地域住民に必要だと認めてもらうための行動が必要だと思います。

●価値の具体的な示し方
地方で演劇事業を成り立たせるための考え方の1つに「地域に寄り添う」という方法があります。例えば、私たちは「街づくり演劇」で、価値を示してきました。自分たちの街の歴史や、社会問題を啓発する演劇はとても共感を得られます。「街が発信したい情報を演劇で伝達する」ことは〈わかりやすい価値〉(付加価値)となり、必要とされます。
私たちは、それを、市民参加型の演劇として上演しています。それは、本来の価値「芸術の役割」を、より効果的に果たすことができる、演劇事業となるからです。私たちは、このスタイルで、行政との協働事業や、委託事業など、演劇を仕事として行う団体となりました(任意団体としては、あまり例がないと思います)。この他にも、考え方次第では、付加価値はいくらでも生み出すことができるはずです。演劇最強です。

●地方でのアートマネジメントの難しさ
地域に寄り添った演劇には、難しい問題もあります。
それは、マネジメントです。なぜなら、前例がないので、予算を提示するときに、地方の名前も知られていない作家や演出家、役者など、ギャランティーの積算根拠、それに「制作スタッフとは?」「舞台監督とは?それは必要なのか?」などの問いに、丁寧に返答し、納得させないといけません(特に相手が行政の場合)。地方で演劇を仕事にするとき、何が一番大変かというと、これかもしれません。関わる演劇人への報酬ですから、権利の問題なども含め、妥協は許されません。
ただ、これは最初だけで、前例ができると、その後はとてもスムーズです。

●まとめ
大変ではありますが、具体的な価値を誰かが示さないと、いつまでも演劇人の努力は報われないと思うのです。時に、その価値の示し方が「それは演劇ではない…」とか「作品のクオリティが下がる…」と、お叱りを受けることもありますが、どうかそこはご理解いただきたいと存じます。そうすることが「演劇の価値」を、より身近な物として示すこととなり、尚且つ、裾野を広げることになると思っていますし、いつしか演劇が、地方においても当前の仕事としての選択肢となることに繋がると信じています。
誤解してほしくないのは、演劇のこれまでのスタイルが間違っていると言っているのではありません。長崎の演劇人が、それぞれ頑張っているからこそ、私たち事業は成立するのです。演劇人の活動の場をつくることで、御返し出来たらと思っています。


「Meet The うないさん ~水のいのち~」汚水処理施設普及の為の啓発協働事業(長崎県との協働事業)

最後に…
新型コロナウィルスで、公演の中止や延期と大変だと思います。
一日も早くこの事態が終息し、平穏な演劇活動を取り戻せるよう心から願っております。