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2021.01.24

コラム|自粛を契機に、見つめ直す演劇活動と、これからのこと(熊本)

熊本市を中心に活動をしております、德冨敬隆と申します。大学入学を機に始めた演劇ですが、DOGANGという演劇団体を立ち上げ、今では熊本演劇人協議会の会長を務めることになりました。最近では演劇イベント「DENGEKI」を通じて、県外の方々とも知り合い、交流をもっています。そんなことになっているなんて、野球部だった高校時代の僕に言っても絶対信じないでしょうね。

「DENGEKI」が開催された会場、早川倉庫

さて、世界は今、新しい感染症、所謂新型コロナに翻弄されているわけですが、熊本演劇界へも多分に漏れず影響は大きく、すっかり様変わりしました。2020年に入り、公演は続々と中止となり、例年なら全てを観るのが難しいくらい毎週どこかで公演があっている9~12月の演劇シーズンもほとんどありませんでした。かくいう私の劇団も2020年3月に予定していた公演を中止しました。演劇を始めて10数年、毎年何かしらの舞台に立っていたのですが、初めて1度も舞台に立たずに1年が終わりました。

「ステイホーム」が推奨されて、家にいることが増え、家で観られる動画が重宝されています。そんな状況で演劇はどうするべきか。動画では映画やドラマに敵わないし、それらは家にいても観られるわけです。比べて演劇はわざわざ会場まで行かないと観れないし、台詞を噛んでも飛ばしてもやり直しのできない一発勝負ですし、予想外の事故があるかもしれない。あれ?別に今の状況じゃなく平時でも動画の方が便利ですね。なのになぜ演劇なのか。演劇人はなぜ舞台に立つのか、舞台に関わるとはどういうことかを見つめなおす機会でもあるのかもしれません。私も、時折映像作品の作成に関わることがありますが、「やっぱり舞台がいいなぁ」と思うことが多いわけです。私の場合は、やはり「生」の魅力に憑りつかれているわけです。

 

熊本市内 下通アーケード

しかし、熊本の演劇活動がすべて消えたわけではありません。熊本の老舗劇団の市民舞台さんは、元々予定していた公演をリーディング公演に変更し、尚且つ役者をボックスで囲むことで役者・観客ともに感染リスクを減らす工夫をされていました。くまもと演タメ学園生徒会さんはYouTubeを活用していろいろな企画を配信されています。その他の劇団も、感染が終息することを期待して2021年に公演を計画しているところがたくさんあります。僕のところもその一つです。熊本の演劇界は決して光を失ったわけではないのです。

研究が進んだことで最近ようやく「このような対策を取れば感染リスクが抑えられる」というのがわかってきました。終息を待つより、どうすればこの状況で演劇公演をやれるのかを模索していくことも必要でしょう。また、ワクチンの開発・接種も進んできています。終息にはもう少し時間がかかるでしょうが、そのうち何の制約も憂いもなく公演ができる日がきっと来ます。その日まで、力を蓄え準備をしておくのもいいかもしれません。脚本を書き貯めたり、演技の幅を広げたり、新しい演出方法を考えたり、やれることはたくさんあります。
ちなみに、スペイン風邪が流行った頃の映像を見ると、人々はマスクを量産し、「人と人との接触は避けましょう」と、ハグや握手をせずに挨拶するように啓蒙しています。100年前と今もさほど変わりませんね。さらにいうと、その後世界恐慌が起きています。要因は違えど、現在も経済は圧迫されており、芸術分野は必要ないと言われることも少なくありません。芸術が無くても生きてはいけます。でも、芸術がなければ豊かな人生にはなりません。人は生きるだけではなく、芸術を楽しめるから人なのです。熊本が、九州が、日本中が、世界中が芸術分野を大事にしてくれることを願います。

德冨敬隆(熊本演劇人協議会 会長、劇団DO GANG)