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2025.07.01

コラム|裾野広がる長崎演劇界(長崎)

 長崎市を拠点に活動しております、総合創作団体Kimamass(以下Kimamass)の代表の浅野宇泰と申します。当団体は劇団と名乗っておりませんが主に演劇を中心に創作活動を行っており、その他、長崎市内で毎月文芸イベントを実施しております。

 当団体以外にも自主公演以外の活動をしている団体があり、謎解きイベントを開催している団体や、毎週ワークショップを開催している団体も。特に後者は東京で展開している「読み合わせカフェ」というイベントを長崎に移入し、県民がさらに演劇に触れやすい環境作りを意識した活動が見られます。

Kimamass主催の文芸イベント「一時間文芸」の様子。制限時間1時間で執筆を行い、戯曲に挑戦する参加者も。

 

 その他、アトリエや劇場を持つ団体は積極的に県内外から上演団体を募集し、数年前に比べると格段に県外の演劇作品に触れることの出来る機会が増えました。特に長崎は九州の隅っこ。なかなか気軽に他県の演劇を観る機会がなかっただけに、この取り組みは色んな演劇が観たい方々にとってはありがたいものだと思います。

 しかし、そんな活動の裏側を思えば長年続く長崎の演劇環境の課題があったからこそなのではと考えます。

長崎では少なくともここ十年以上、継続して活動できる新規劇団やユニットがあまり現れておりません。

 他県も近い環境があるかもしれませんが、県が抱える人口流出問題も相まって、演劇を志す若手の数が少なかったのも事実でしょう。Kimamassが活動をやめずに続けてきた理由の一つとして「やめればこの後の長崎の演劇が終わってしまう」と危惧していたほどです。今思えば勝手に責任を負いすぎている気もしますが。

 継続して活動している団体も、ユニットを作ることでマンネリからの脱却や新規性を図っています。その多くは年齢で区切る傾向が多く、メンバー全員がうさぎ年生まれの「うさぎ組」や、メンバーが全員平成生まれでなければならない「平成民族」がその例だと言えるでしょう。

 平成民族は私が代表をしておりまして、この企画は数年おきの間隔で出演者を公募する習わしなのですが、今年の4月の公演で3回目。1回目の時は18名程度集まったのが今年は30人にまで増え、徐々に次世代の長崎演劇の担い手が増えてきていることを肌で感じました。この企画は長崎で活動している若手のショーケース的側面もあり、長崎の昭和世代の団体の皆さんにも知ってもらって若手を育てて欲しいという願いもあります。

平成民族第3回演劇公演『昭和百年』参加者

 Kimamassでも近年、いかに演劇の敷居を下げ、知ってもらえるかを中心に企画することが多いです。

 小劇場、という環境が初めてで慣れないお客さんにリーチするために劇場以外のカフェや文房具店、長崎の自然を活かして海辺で上演を行いました。他に音楽ライブやライブペインティングとのコラボなど企画の新規性も相まって演劇関係内外からも耳目を集め、徐々に浸透している実感があります。

 活動としても最近は短編の朗読公演が多いです。これは製作コストや製作時間を抑えることで、公演回数を増やし

認知度の向上を図るのに加え、一本だけお芝居を入れることで部分的に演劇の良さを味わってもらうことを意図しております。

これらも他の演劇団体の皆さまがしっかりとした演劇を上演していただけるから成り立っている活動だと思います。Kimamassで演劇を知ったお客さんが他の団体の公演を観て、より豊かになってもらえるのが理想です。

そんな長崎演劇界隈、今秋に初めて長崎で行われる国民文化祭に向けて多くの団体や個人が水面下活動中です。県民全体が文化に触れる機運が高まる2025年の長崎。広がりゆく裾野は今後、どんな山を形作るのでしょう。

浅野宇泰(総合創作団体Kimamass 代表)